アジアに進出する日本企業にとって、相手国の土地使用、外貨、税務、労務、社会保障、技術譲渡・ライセンス、コンプライアンスなど法律問題への対応は必須であり重要な課題である。シリーズ3回目は、東アジアに独自のネットワークを築いている中国の総合法律事務所「世澤律師事務所」を取り上げる。同事務所は創業パートナーの姫軍弁護士らが現場主義を貫き、日本企業はじめ欧米企業の中国進出に加え、ブロックチェーンなど新たな分野のリーガルサポートにも挑戦している。【毎日アジアビジネス研究所長・清宮克良】

ブロックチェーンサミットに参画

東京の都心にそびえる虎ノ門ヒルズで4月6、7両日、「TEAMZブロックチェーンサミット」が開催された。海外ビジネスのコンサルティング事業を手がけるTEAMZ(本社・東京都千代田区、楊天宇代表)が主催し、日中はじめ世界から延べ3000人のブロックチェーン企業関係者らが集まり、熱気を帯びたカンファレンスとなった。ブロックチェーンは管理者のいない非中央集権・分散型の幅広い情報共有を前提とした技術であり、その特性から技術活用に大きな可能性がある一方、中央集権的な管理者の存在を前提にした従来の仕組みや法律とは相違点があるのも事実だ。

seimiya1ブロックチェーンをめぐる法規制のセッションは世澤律師事務所の陳軼凡弁護士がモデレーターを務めた=写真、左から世澤律師事務所の陳氏と孫氏、虎門中央法律事務所の平野氏と望月氏。陳弁護士は2001年に文部省留学生として中央大学大学院を修了し、11年から世澤律師事務所上海支所にパートナーとして参画。14年12月、法務省の承認を受け、日本弁護士連合会の登録を行い、外国法事務弁護士(東京弁護士会所属)として日本で活動するようになった。世澤律師事務所の東京代表として、提携する虎門中央法律事務所(東京都港区、今井和男・代表弁護士)を拠点に労働法分野などにおいて豊富な経験と実績を上げている。

中国における第一人者の存在

なぜ、世澤律師事務所は最新のブロックチェーン分野に参入するのだろうか。

陳氏は「同僚の孫銘弁護士が中国のブロックチェーン関連法制の第一人者であることが大きい。将来を見据えて可能性のある分野に挑戦したい」と強調した。セッションに参加した孫弁護士はブロックチェーン技術や最先端の法律に精通し、中国国内最古のブロックチェーン投資機構「分布式資本」の法律顧問をはじめ各企業の著名なプロジェクトのリーガルサポートをしている。

seimiya2孫弁護士のプレゼンテーションによると、中国の中国人民銀行、工業情報化部、銀行会等は連名で2017年9月、「トークン発行による融資リスク防止に関する公告」を発布し、各種のトークン(既存のブロックチェーン技術を利用して発行された仮想通貨)発行の融資活動を全面的に停止するように要求した。しかしながら、中国政府がブロックチェーン産業の発展を指示する社会環境のもと、ブロックチェーン・プロジェクトの融資ニーズは常に存在し、将来的には監督管理のもと再生したICO(新規仮想通貨公開)が出現する可能性はあるという=写真、中国のブロックチェーン関連法制の第一人者である孫氏(右)と陳氏

セッションには日本の関連法制に詳しい虎門中央法律事務所の平野賢弁護士と望月崇司弁護士も参加した。望月弁護士は日本における仮想通貨交換業法制を紹介したうえで、ブロックチェーンは個人情報保護法が想定しているケースと異なる仕組みとなっていると指摘。平野弁護士はブロックチェーン上で契約を自動的に実行する仕組み「スマートコントラクト」の法的課題を説明しながら、「この分野についてさらに研鑽を深めて時代のニーズに応えていけるように努力を続けたい」と述べた。

姫弁護士は日米の法務にも精通

世澤律師事務所は北京、上海、広州、香港、東京に拠点を持ち、69人の弁護士を抱えるローファームである。特に、日本企業の中国進出撤退、中国企業との取引における日本企業の代理など中国関連の案件において高いプレゼンスを有する。英国の法律事務所評価機構「The Legal 500」が公表した2019年アジア太平洋地区中国資本事務所のランキングによると、世澤律師事務所は独占禁止・競争法、コーポレート・M&A、プロジェクト・エネルギーの領域で卓越した実績によりランクインした。

創業パートナーの姫軍弁護士は1991年に北京大学法学部を卒業後、東京大学大学院とハーバード・ロースクールで法学修士の学位を得た逸材である。日本の森・濱田松本法律事務所、米国のKirkland & Ellis弁護士事務所ロサンゼルス支所で勤務した後に帰国し、2004年に世澤律師事務所を設立した。

特に知的財産権に関する訴訟・仲裁に関して豊富な経験があり、05年にはヤマト発動機の代理人として4社の中国側被告を商標権侵害で訴え、中国の一審判決と最高人民法院の終審判決で完全勝訴を勝ち取った。これは商標権侵害が成立することの証明を成功させただけでなく、830万元人民幣の損害賠償も獲得した。同賠償金額は、今日に至るまでの中国における商標侵害事件において、外国企業に与えられた最高の賠償金額となっている。しかも、強制執行において姫軍弁護士率いる世澤チームは830万元人民幣全ての回収に成功した。同案件は知的財産法学界の専門誌、英国「Managing IP」誌で「2008年アジア太平洋地区商標重要案件」に選ばれた。

最近では17年に日清食品の法律顧問として、日清食品の香港上場に全プロセスにわたって全面的に参画しリーガルサポートを行った。

現場主義と顧客志向のDNA

seimiya3世澤律師事務所と虎門中央法律事務所は15年から外国法共同事業を実施している。両事務所の提携は姫弁護士と今井弁護士のトップ同士の信頼関係によるところが大きい=写真、姫弁護士(左)と今井弁護士。日中両国で活躍する陳弁護士は「世澤律師事務所と虎門中央法律事務所は現場主義と顧客志向という同じDNAを持っている」と述べる。陳弁護士はこれまで中国に進出した何十社もの日本企業の企業再編、閉鎖案件を手がけ、現場に足を運んで従業員の処置案やリスク予測のみならず、具体的なプロセス案まで提供し、ストライキを含む労働問題を迅速に処理してきた。

米中貿易摩擦があるものの、世界の企業の中国進出が続く中で、世澤律師事務所は日本の虎門中央法律事務所をはじめ、台湾の有澤法律事務所、韓国のLEE&KO法律事務所、香港のCFN法律事務所と東アジアの独自ネットワークを基盤にして、欧米のCMS Cameron McKenna LLPなどとも連携し、グローバル・ローファームとして地球規模で連携の輪を広げている。

 

清宮せいみや・かつよし 1983年毎日新聞社に入社。水戸支局、社会部、政治部。98年米ジョンズポプキンス大国際関係大学院(SAIS)客員研究員、その後、ワシントン特派員、政治部副部長、さいたま支局長などを経て執行役員国際事業室長。中国、インドネシア、ベトナム、ミャンマー、タイ、ロシアでフォーラムやイベントを手掛ける。2018年10月から現職。