2015年に事実上のアウンサンスーチー政権が発足したミャンマー。11年の民政移管以降、「アジア最後のフロンティア」として脚光を浴びてきたが、日本企業の進出は一服感が漂う。急上昇していた最大都市ヤンゴンの住宅やオフィスなどの賃貸物件価格は下降気味だ。とはいえ「同じレベルの物件なら価格はシンガポールをしのぐ」(ヤンゴンで不動産仲介などを手掛けるアレン・ヤンゴン社の海老原拓也氏)という状況は変わらない。駐在員がヤンゴンで暮らす上で苦労するのは、まずは住まい選びである。ポイントを紹介したい。

【毎日アジアビジネス研究所・西尾英之】 

 

日系企業の多くがオフィスを構えるのは、ヤンゴンのランドマークで日系のオフィスビル「サクラタワー」がそびえる繁華街のダウンタウンや、仏教寺院シュエダゴンパゴダがあるダゴン地区、日本大使館があるバハン地区などだ。交通量が急増し、中心部の道路は朝から晩までひどい渋滞が続く。

ヤンゴン地区別マップヤンゴン地区別マップ=ウィキペディア英語版より(Jeremias氏作成、毎日アジアビジネス研究所翻訳)

◆居住エリア◆

地下鉄はないが、路線バスがある。しかし、いつもすし詰め状態で経路も複雑なので、ローカ ル・オンリーと言っていい。結局、日本人駐在員は社有車や運転手付きのレンタカーで通勤する ケースが大半だ。懐の厳しい企業の場合は流しのタクシーも日常的に使う。料金は交渉制である。

単身者なら、通勤時に渋滞に巻き込まれて時間を無駄にしないためにも職場に近いエリアに住むのが最適かもしれない。中心部にオフィスを構えている場合に便利なのは、ダウンタウンの北側に当たるダゴン地区やダウンタウンの一角である中華街とも重なるラマドー地区。場所によってはサクラタワーあたりまで徒歩で通うこともできる。外国人が利用できる飲食店も多い。

ダウンタウンに関しては、旧市街の古い町並みで老朽化した建物も多い。イスラム系住民も少なくないので、利便性は良いが、住むには抵抗感があるかもしれない。学生や若い世代の単身者向きだろう。オフィス兼住居として小さなアパートに暮らす人もいる。

家族同伴向きなのが、繁華街からは少し離れた高級住宅地のバハン地区や、その北のヤンキン地区だ。バハン地区は欧米企業の駐在員も多く落ち着いた雰囲気で、外国人向け輸入食材や生鮮食品が豊富なスーパーマーケットもある。ヤンキン地区は中心部からやや離れるため、間取りがゆったりした部屋を比較的安く借りることができる。

学齢期の子どもを同伴しているのであれば、ダウンタウンのラマドー地区がヤンゴン日本人学校(園児・児童・生徒)に近いが、むしろスクールバスの経路近くに住むと便利だ。バハン地区からヤンキン地区にかけてである。スクールバスは日系企業が複数台の中型バスを運行している。児童・生徒の約2割は父兄が送迎している。2015年後半以降、家族同伴の赴任者が増え始めた。

ミャンマー初の経済特区として開発されたティラワ工業団地は、ヤンゴン市街地から南へ約25キロの場所にある。市街地からの行き来にはバゴー川にかかる全長2キロの橋を渡らなければならない。橋がネックとなって渋滞が激しく、市街地から工業団地まで車で2時間近くかかることがある。

ティラワ工業団地に通勤する場合、バゴー川のティワラ側に住むのが便利だ。ただ、日本人が住めそうな物件は少なく、多くは、地元デベロッパーが開発した「スターシティ」に住んでいる。

 

スターシティは、高級コンドミニアム群にスーパーマーケットやレストランなどの複合施設、ゴルフ場も備え、東京ドーム30個超分の広さを誇るニュータウンである。セキュリティーも高く。賃貸価格はヤンゴン市内と比べて3割程度は安い。バゴー川も望めて住環境としては良い。

◆賃貸物件の種類◆

 ヤンゴンで借りることができる住居用物件の形態はさまざまだが、駐在員向けに一般的なのは「コンドミニアム」と「サービスアパート」だ。コンドミニアムは日本でいう賃貸マンションで、サービスアパートは、ホテルのような清掃やベッドメーキングが週2回程度付き、いずれも24時間のセキュリティーサービスが付く。

サービスアパートの大部分は家具、家電、寝具、食器などを完備している。インターネット接続、電気、水道も新たに手配する必要はなく、単身赴任者であれば自分の衣類程度を持ち込めば生活できる。コンドミニアムの場合を含め、家具や家電が付いていない場合、自前でそろえるか、日本からの引っ越し荷物で持ち込む必要がある。ただ、交渉次第でオーナーが新たな新品の家具や家電器具を買い、部屋に備えてくれる。

他にも、コンドミニアムより格落ちする「アパート」や、一般に価格が高い「一戸建て(一軒家)」もあり、単身か家族同伴か、予算によっても選択の幅がある。アパートは一般にエレベーターや停電に備えた発電機を設置していない。

◆家賃相場◆

 ヤンゴンの賃貸物件の家賃は、民政移管以降、海外企業の進出ラッシュで毎年の契約更新のたびに1・5倍や

2倍にも賃料が跳ね上がった。軍政期には外国人の居住者は限られていたため、供給は限られていた。怒涛のように外国人が押し寄せたことで需要に対して供給が追い付かず、強気に出るオーナーが多かった。

このため、更新を断念して行き場を失うといった現象も生じた。外国人向け物件の家賃は、東京やニューヨーク、シンガポールと同等程度かそれ以上にも高騰した。

しかし、スーチー政権が誕生して経済成長が一服した2015年ごろをピークに、外国人駐在員の数は伸び悩み、供給も増えたことから、翌16年の賃料相場は5%程度、17年もさらに10%程度、それぞれ下落し、下降局面に入った。

それでも、平均的な駐在員(単身・家族を含め)の賃貸物件は月額1500~3500ドルのレンジだ。「メンテナンスの意識」が著しく欠如しているこの国で、建物は途端に劣化が進み、「このレベル(内装や設備の安普請さを含め)でこの値段?」と驚くことになる。

アレン・ヤンゴン社の海老原氏によると、駐在員向けの高級コンドの月額賃貸料は現在、2LDK3500ドル、

3LDK4500ドル前後で、1LDK はほとんどない。

海老原氏によると、高級コンドとしてはバハン地区からヤンキン地区にかけての人気エリアに、「ミャインヤー」「ゴールデンシティ」といった新しいコンドがいくつか完成した。サンチャン地区のシュエピー・コンドは日本大使館や JICA など日本人駐在員も結構多い。最近できたツイン・セントロ・コンドもこの近くだ。ヤンゴン・サッカー場近くに地元ゼネコンが建設したジェムズも設備が整っていると評判だ。

 

サービスアパートに関しては、御三家として「ゴールデン・ ヒル・タワー」「サクラ・レジデンス」「マリーナ・レジデンス」がある。いずれもバハン地区からヤンキン地区にかけてで、入居者の多くは日本人だろう。カンドージ湖南側に1年半ほどの前にできたシャングリラ・レジデンスは最高級で、御三家のサービスアパートよりもかなり割高だが、大手企業の駐在員に人気だ。相場は1LDK5000ドル、2LDK6000ドル、3LDK8000ドルが目安だ

一方、軍政時代はホテル住まいの駐在員も多かったが、民政移管以降、ホテルに需要に供給が追い付かない状況となり、宿泊料が一気に高騰した。ホテル住まいを追い出される人たちが相次いだが、ここにきてホテルの改装、新築が相次ぎ、宿泊料も落ち着いている。

これに伴い駐在員の「ホテル回帰」も起きている。昨年オープンした大型高級ロッテホテルはサービスアパー

トより価格は割安で、しかも近くにショッピングセンターもあり、人気を博している。

ホテルの場合、長期滞在者には割安料金を提示してくれるが、さらに交渉も可能だ。ヤンゴンでの生活上のわずらわしさから「解放」してくれる、という点で、単身で仕事に専念したい人にホテル住まいはお勧めだ。プールやジム、サウナを備えたホテルでも以前に比べ割安感が出ている。

◆電気・水事情◆ 

生活の基礎インフラに関して、アウンサンスーチー政権になって以降の大きな変化は、電気事情がかなり改善してきた点にある。民政移管以降は急速な経済成長に発電能力が追いつかず、ミャンマーでは年間を通じて停電が頻発した。この国は主に水力発電に頼っているため、水量が乏しくなる雨期入りを前にした乾季(酷暑期)の3~5月はひどかった。

ヤンゴンでも一日に10時間以上の長時間の完全停電や断続停電は日常的で、こうした状況が慢性的に続いた。大型の公共施設や病院、ホテル、高級コンドやサービスアパートの場合、大型のジェネレーター(発電機)を備えて対処していたが、一般的なアパートの場合はエアコンも冷蔵庫もインターネットも基本的には使えず、断水もした。シャワーを浴びて頭をシャンプーしている最中、停電となり、途方にくれることもあった。

しかし、国内の電力供給量が徐々に増加する中で、「ヤンゴンの経済開発を最優先させる」と表明したスーチー政権は、それまで優先的に電力を供給していた首都ネピドーに、ヤンゴンを加えた。工場の操業にも甚大な影響が出て外国企業の誘致に支障がないよう、努めてきた(これに伴い他の地方や都市がとばっちりを受けているが)。

2017年はヤンゴン中心部で1日平均1~3時間の停電にまで改善したが、18年はさらに改善し、ヤンゴンであれば週に1~2回、それぞれ数十分程度で復旧している。行政がフェイスブックを通じて、計画停電や事故の際の緊急停電についても情報も流しており、「いつになったら復旧するのだ」と、暗澹たる気持ちに襲われることもなくなった。

以前は、住まい探しでオーナーに発電機や蓄電器の導入を依頼するケースが多かったが、最近ではこうした交渉の必要はまずない。電気事情はひところに比べて劇的に良くなり、これに伴い給水事情も改善している。安いアパートだと、かつては水道の蛇口をひねればコーヒー色の「上水」が出て(上水道管の老朽化が最大の原因)きて、浄水器でろ過する必要があったことを考えれば、隔世の感である。

ヤンキン地区のアパートで水道をひねると常時、コーヒー色の「上水」が出た=2012年当時の毎日新聞ヤンゴン支局、春日撮影

ただ「停電」についてどう感じるかは相対的なもので、日本的感覚なら、1日数十分の停電でも耐えがたいかもしれない。

また、ミャンマーの物件は電源、照明に加え水回りなど、日本やアジアの他の国に比べて不具合が多い。トイレは紙を流すと詰まりやすく、汚水や汚物が不意に逆流してあふれることも少なくない。古い建物の場合、漏電のためシャワーのタップに触れると通電していることすらある。

こうしたメンテナンスは基本的にオーナーが対応すべき義務でもあり、申し出れば多くの場合、応じてくれる。即対応してくれるかどうか、どう対応してくれるかはオーナー次第なので、契約の際、オーナーの人柄や性格を調べる一方、問題が起きた際のメンテナンスについても、しっかり確認しておく必要がある。

◆契約と解除◆ 

初めてのヤンゴンで部屋を探し、地元のオーナーと直接交渉して部屋を借りることはハードルが高い。主に日系の不動産業者に部屋を紹介してもらい、契約を仲介してもらうことになる。契約は1年間が基本で、家賃は1 年分の前払いが原則。途中で解約しても、たいていは返金に応じてもらえない。

困るのは、年の途中で会社から帰任・帰国命令が出たり、他国への転勤を命じられた場合だ。オーナーによっては契約時に申し入れれば、「勤務先から転勤辞令が出た際のみ」年の途中での解約、返金に応じてくれる場合もある。その場合も契約書にしっかりとその旨書き込んでおく必要があり、仲介業者を通じて契約時によく話し合っておくべきだ。

「アレン・ヤンゴン」社によると、契約時の敷金に関しては、物件が家具・家電付きの場合、1か月分を求め られることが多い。家具・家電付きではない場合、敷金はまず生じない。手数料について、これまでは仲介業者 がオーナーと借主の双方からそれぞれ1か月分を取るケースが多かったが、最近は賃貸業界の過当競争も反映し、借主から取らないケースも出始めた。

◇不動産仲介業者◇

スターツやレオパレス21など日本でも名の知れた企業が進出する一方、今回取材協力してくれた「アレン・ヤンゴン社」など、民政移管以降、多くの企業がこの業界に参入、企業間競争は激化している。インターネット上でも事前に多くの情報は得られるが、現地事情は刻一刻と変化する。まずは問い合わせを。